胃拡張・胃捻転を起こした超大型犬の1例

 胃内に大量にガスが貯留し、胃拡張・胃捻転を起こした中年の超大型犬が呼吸促拍の状態で来院した。外で遊んでいたら急に立てなくなり、ふらふらし始めたとの主訴であった。身体検査を行ったところ、腹部がパンパンに張っており、レントゲン画像上で胃の中に大量のガス貯留が認められた。すぐに留置針を用いて胃内ガスを排出したところ、呼吸は少し落ちついた。状態が落ち着いたところで胃の捻じれを整復し、胃の位置を固定する手術を行った。
胃の位置は本来の位置から180度回転して捻じれており、胃の中にはガスと貯留液が溜まっていた。
胃拡張・胃捻転は急速で致死的な進行をする疾患であり、放っておくと不整脈、虚血、多臓器不全などを引き起こし危険な状態に陥る。胃内のガスを抜くだけでは再発を起こしやすく、手術により胃を正常な位置に固定し、胃の内容物を取り除く必要がある。
この疾患は大型犬や、胸の深い犬で起こりやすく、発生原因としては、大量の食事を早食いすること、布などの異物を飲み込むこと、運動後や暑熱環境で呼吸が早くなり空気を大量に飲み込むことなどが考えられる。
もしも疑わしい症状が出た場合にはすぐに病院にご連絡することをお勧め致します。

           OPE前の胃

           OPE後の胃

特発性間質性肺炎を疑った犬の一例

1歳の秋田犬が呼吸が早いとのことで緊急来院した。レントゲン検査では肺全域の不透過性亢進、肺胞パターン、間質パターンが認められた。血液検査では白血球の軽度上昇、それ以外は正常値だった。

肺が白く写ってしまう病気はたくさんある。鑑別診断としては肺炎、肺水腫、腫瘍などがある。年齢のことを考えると腫瘍は考えにくい。肺炎ならば咳が出たり、CRP(炎症のマーカー)の上昇が認められることが多い。肺水腫ならば心雑音や肺胞パターンのみが認められることが多い。これらのことから診断に苦慮していた。

その日に日々勉強している獣医師サイトの質問コーナーにて米国獣医内科学専門医の佐藤雅彦先生に相談する機会を頂いた。特発性間質性肺炎が疑わしいとの返答を頂いた。確定診断には麻酔下にて気管支肺胞洗浄回収液(BALF)が必要になるが、全身麻酔のリスクを考慮し、試験的に治療を開始した。ネブライザー(ゲンタマイシン、ムコフィリン、ビソルボン) BID、バイトリル(エンロフロキサシン) 5mg/kg SID、ブリカニール(テルブタリン) 0.1mg/kg SIDを5日間行ったところ、見事に改善した。治療的診断が功を奏した一例だった。

 

治療前

治療後

結石による尿道閉塞を伴った老犬の尿道ろう形成術

膀胱内に結石が存在していた13歳の中型犬が、尿道閉塞による腎不全を発症し虚脱状態で来院した。排尿できず膀胱には大量の蓄尿があり、BUNやCre等が高値となって、腎後性腎不全になっていた。陰茎骨の付け根に結石が完全閉塞し、水圧をかけたり、ゼリーを高圧で入れても、動かなかった。細い尿道カテーテルが結石の側面を通過したため、排尿後留置して、十分な点滴をした結果、状態は改善し、食事も食べれるようになったが、カテーテルを抜去すれば同様の状況に戻ることが予想された為、飼い主様と相談の上、将来膀胱結石が再発しても尿道の閉塞を起こしにくい尿道ろう形成術を陰嚢前部に実施した。その後の経過も良く、数日後抜糸となる。

 

 

 

 

犬の多中心型リンパ腫(StageⅤ)の1例

8歳の雑種犬が首にシコリがあるとの主訴で来院されました。

問診では、1週間前から元気がなく、食欲も低下して昨日からは下痢もしているとのことでした。

身体検査では、体表リンパ節と呼ばれる下顎・浅頚・腋窩・鼠径・膝下リンパ節が腫脹しており、さらに脾臓も大きく腫大していました。

血液検査では貧血、血小板減少および白血球増多が見られ顕微鏡による血液塗抹の観察ではリンパ系腫瘍細胞が出現しており分裂像も確認されました。

炎症のバイオマーカーであるCRPも高値を示していました。

追加検査としてレントゲン検査、リンパ節の細胞診検査を行い、

多中心型リンパ腫 Stage5b(Bcell high gradeを疑う)

と診断しました。

 

オーナー様と相談して化学療法(UW-25プロトコール)による治療を行うこととしました。

治療開始してから1ヶ月程度は一進一退の状態でしたが、2ヶ月目には完全寛解となり本人は元気いっぱいで、食欲旺盛なために太ってしまうとオーナー様もうれしい悲鳴をあげていました。

 

まだ化学療法治療は続きますが、犬・家族・病院スタッフでのチーム医療で頑張っていきます。

フトアゴヒゲトカゲの腹部の腫瘍摘出手術

中年のフトアゴヒゲトカゲの腹部に認められた悪性腫瘍と思われる腫瘤の摘出手術と確定診断のための病理組織検査を実施した。                      病理組織検査の結果は黒色素胞種(Melnanophoroma):色素胞種は爬虫類で最も多く報告されており、次いで両生類、魚類での報告がある。色素胞種はほとんどが良性だが、今回の腫瘍は核異型性や核分裂像が多いので、悪性の挙動を示す可能性が高いとのコメントがあったので、今後の他臓器転移に注意していきたい。

犬の機能性甲状腺癌

最近痩せてきているとのことで来院したゴールデン・レトリーバー。
血液検査(血球検査、血液化学検査、SDMA)では異常はなく、胸部・腹部のレントゲン検査でも異常はありませんでした。
身体検査をしたところ頚部に約5㎝の腫瘤が見つかり、その部位の超音波検査では腫瘤に多くの血管が見られました。
太い血管を避けるように細胞診検査を行うと赤血球を主体として上皮細胞がシート状に採取されました。ここまでの検査で甲状腺癌を強く疑いました。
犬の甲状腺癌の場合、多くが非機能性ですがこの症例では痩せてきているために甲状腺ホルモンを測定してみると、
・血清総サイロキシン(T4):7.8 g/dL(参考基準値 1.0〜4.0)
・遊離サイロキシン(FT4):>77.2 pmol/L(参考基準値 7.7〜47.6)
・犬甲状腺刺激ホルモン(c-TSH):0.02 ng/mL(参考基準値 0.05〜0.42)
であり、多量の甲状腺ホルモンが分泌されているために痩せてきている可能性が示されました。

腫瘤の触診では固着はないために手術が可能と判断し、オーナー様と相談のうえ甲状腺腫瘤摘出を行うこととなりました。(腫瘤が筋肉や血管とくっついていると手術は難しくなるために放射線治療が選択されることがあります)

写真は手術中のものです。白く見えているのが気管、その左にある塊が甲状腺腫瘤です。

摘出した腫瘤の病理組織検査では『甲状腺癌』と診断されました。
手術後の甲状腺ホルモンの測定では低値を示し、甲状腺機能低下症の状態になっているため現在は甲状腺ホルモンの補充治療を行なっています。

犬の甲状腺癌で転移が見られずに完全切除できた場合は、外科治療単独でも平均生存期間は3年以上との報告があります。(一方、固着性で不完全切除であった場合、平均生存期間は10ヶ月、1年生存率は25%)
本症例では完全切除ができており、転移病変も見つかっていません。
オーナー様との相談で、化学療法は行わずに定期的に再発・転移をチェックしていくことにしています。

中年以降の犬では日常的なスキンシップの中で体にシコリができていないかをチェックして、何か発見した場合は早めに病院に来院して下さい。

大腿部外側の大きな軟部組織肉腫の切除手術に皮膚のフラップを応用した

10歳を超えた中型犬の大腿部外側に直径10cm近い腫瘤が形成されていた。すぐに針生検により細胞診をした結果、非上皮系悪性腫瘍の特に脂肪肉腫が疑われた為、後日切除手術を実施した。腫瘍周囲を1.5㎝マージン、深部は大腿筋の筋膜まで切除をすると、腫瘍の切除後はかなり大きな皮膚の欠損となるため、余裕のある腹側部の方向から皮膚を移動して被覆する形で縫合する必要があった。いわゆる皮膚フラップ形成術により皮膚にテンションをかけずに縫合を実施した。2週間後にはきれいに縫合部が癒着していたため、抜糸をした。

 

 

 

外科手術により甲状腺癌を治療した老齢の犬の2症例

いずれも10歳以上の2頭の老齢のゴールデンレトリーバーに、腫瘍化した甲状腺の摘出手術を実施し、その後も順調に経過している。この2頭のゴールデンレトリーバーは血統が繋がっていたので、遺伝的な素因はあったものと思われる。病理組織検査の結果はいずれも甲状腺癌だった。

 

犬の卵巣の未分化胚細胞腫の1例

13歳の雑種犬の食欲不振と腹部膨大で来院、X線検査とエコー検査で中腹部のマス病変を確認。肝臓や脾臓には異常がなかった為、生殖器の腫瘍の可能性があることをお伝えし、相談の結果、切除手術を希望されたため、実施した。術中の写真と摘出した卵巣腫瘍と子宮の写真を下に示す。卵巣の未分化胚細胞腫はオスの犬のセミノーマに相当するもので 10~20%の症例で転移を起こすと言われている。

この時期に多いトウモロコシの芯の誤飲

体重10㎏に満たない若齢犬がトウモロコシの芯を飲み込んでしまい、催吐処置や内視鏡の異物鉗子(バスケット鉗子)などで摘出することは難しいサイズだったため、胃切開手術となった。                                  毎年、夏場からこの時期に多い異物の為、飼い主の皆さんには十分注意していただきたい。