犬や猫の皮膚病は動物病院において非常に来院数が多い疾患として知られています。犬や猫の皮膚病はさまざまあり、痒みをもたらすアレルギー性皮膚炎、湿疹がみられる表在性膿皮症、ベタつきや臭いがする脂漏症、ホルモンが関連した脱毛症など多岐にわたります。病気の原因はさまざまであるため、皮膚科検査を実施し、原因に応じた対応を行うことが重要です。また、皮膚疾患の多くは慢性的であり、長く付き合っていかなくてはならないケースも多いため、当院では、なるべく身体に負担が少ない治療や長く続けられる方法を検討し、提案させていただきます。
気をつけたい皮膚のトラブルとしては、痒い、赤い、湿疹がある、ベタつきがある、フケがある、毛が抜けていることなどが挙げられ、このような症状が見られる場合は動物病院での受診を検討しましょう。
問診票の記入後、問診票をもとに診察室でヒアリングさせていただき、必要な皮膚科検査(皮膚押捺塗抹検査、セロハンテープ検査、ウッド灯検査、抜毛検査、アレルギー検査など)を実施します。皮膚科検査の結果から、考えられる要因や診断についてお話しさせていただき、治療内容について相談の上、決定させていただきます。
犬の皮膚疾患の中でも最も多いのが犬アトピー性皮膚炎です。犬アトピー性皮膚炎は遺伝的な素因、免疫学的異常、皮膚バリア障害、微生物/常在菌要因、環境アレルゲン(ハウスダストマイトや花粉)などの様々な因子が複雑に関与して発症します。主な症状は痒み、赤み、脱毛、引っ掻き傷、色素沈着(皮膚が黒くなる)、苔癬化(皮膚が分厚くなる)で、目や口周囲、耳、足先、腹部を中心に左右対称に認められます。発症年齢は若齢(6ヶ月齢〜3歳齢)のことが多く、ウエスト・ハイランド・ホワイトテリア、ゴールデンレトリバー、パグ、フレンチ・ブルドッグ、ジャックラッセルテリア、ヨークシャー・テリアなどの犬種で多いことが国際的な論文では報告されています。国内ではチワワ、トイプードル、柴犬でもよく見られます。アレルギー性皮膚炎の患者さんの治療としては、原因を探索し、食事療法、内科療法、外用療法、スキンケア、サプリメントなどその子その子にあった治療法を相談しながら決めていきます。
食物アレルギーとは食物アレルゲンに対する免疫学的反応として痒みを中心とした皮膚症状や消化器症状を認める疾患です。主な症状は痒み、赤み、脱毛などが目周囲、口唇、耳、足先、腹部、肛門周囲、外陰部に左右対称に認められます。皮膚症状以外には嘔吐、軟便、排便回数の増加などの消化器症状がみられる場合があります。発症年齢は若齢(6ヶ月齢)から中年齢(7歳以降)まであらゆる年齢で発症します。最も類似する疾患として犬アトピー性皮膚炎が挙げられますが、犬アトピー性皮膚炎を併発することもあります。食物アレルギーの診断には除去食試験を実施します。除去食試験とは、食物アレルゲンを含まない食事によって皮膚症状が改善するかを確認する試験です。この試験は厳密に行う必要がありますので、食事内容の計画をたてながら実施します。
食物アレルギーの治療の基本はアレルゲンとなる食物を回避することですが、痒みの軽減が十分でない場合は、抗掻痒薬を検討します。
表在性膿皮症は、皮膚表面に常在するブドウ球菌(Staphylococcus pseudintermedius)が表皮や毛包に増殖あるいは侵入して発症する細菌性の皮膚疾患です。ブドウ球菌は皮膚常在菌であり、何らかの皮膚疾患(アレルギー性皮膚炎)や基礎疾患(内分泌疾患や代謝性疾患)に続発して、発生すると考えられています。主な皮膚症状としては、湿疹、フケ、脱毛が認められます。治療は、抗生物質の内服薬・外用薬・シャンプーなどを症状の程度に応じて行います。症状が繰り返される場合は、基礎疾患の管理の見直しを行い、対策を行うことが重要です。
脂漏症は皮脂の分泌過多によって皮膚・被毛のベタつきが特徴の皮膚疾患です。症状は背部、腹部、足先、耳などに左右対称性にベタつき、フケ、不快臭、脱毛、痒みが認められます。皮脂の増加に伴いマラセチアと呼ばれる常在菌の増殖がみられることもあります。特に、シー・ズー、コッカー・スパニエル、ウエスト・ハイランド・ホワイトテリア、ワイヤー・フォックステリア、ミニチュア・シュナウザー、ダックスフンド、ラブラドール・レトリバーに多く認められます。
脂漏症の多くは背景疾患に関連して発症することが多く、例えば、細菌感染症、寄生虫疾患、アレルギー性皮膚炎などの皮膚疾患、ホルモン性疾患、栄養学的要因(不適切な食事やビタミン不足など)が挙げられます。治療はシャンプーや保湿などのスキンケアを基本とし、重症度に応じて抗炎症薬の投与を検討し、マラセチアの増殖が見られる場合は外用剤や抗菌剤の投与を行います。また、同時に脂漏症の背景となる疾患や悪化因子の対策を併行して行うことが重要です。
アロペシアXは毛の発毛周期の問題によって脱毛する疾患と考えられていますが、その根本的な原因については十分に解明されていません。特にポメラニアンで2〜3歳齢から発症すること多く、痒みを伴わない脱毛で、頭部と四肢以外に脱毛が広範囲に進行性に見られることが特徴です。現在のところ、脱毛を確実に改善させる治療方法は確立されていませんが、去勢手術、ホルモン剤、サプリメントの投与などが有効なこと報告されていますので、計画的に治療を実施していきます。