ミニチュアダックスの乳腺腫瘤摘出のために検査して見つかった肺癌

14歳のミニチュアダックスフンドの左第2乳腺に1cm程のしこりがあり、病理組織検査を目的に切除バイオプシーをすることになった。

麻酔をする手術は必ず術前検査をしますが、血液検査では完全血球検査と血液化学検査をしたが、以前から肝酵素が高い以外はほとんど正常値だった。ところがX線検査をしたところ右側の肺の後葉に2cm大の腫瘤が見つかり(写真①腹背方向・写真②左下横臥)、飼い主の方と相談の結果、乳腺の腫瘤と肺の腫瘤を同時に摘出することになった。術前の検査としてMRI検査により、肺の他の部分に腫瘤がないか、また他の臓器にも異常が無いかを検査する必要があったため、当院と提携しているキャミックという検査センターに予約し、翌日MRI検査を実施した。その結果(写真③)、右肺の後葉に気管支を含む腫瘤があり、それ以外の肺葉には腫瘤はなく、付属リンパ節の腫大もない(写真④⑤)腹部のMRI画像では脾臓に腫瘤のようなものが見られたが(写真⑥)、超音波検査で高エコーの腫瘤が認められ、結合組織の増生の可能性が高かった。その他にはわずかな僧帽弁閉鎖不全があった程度で異常が無かった為、日を改めて右側後葉の全摘出手術および乳腺腫瘤の摘出手術を実施することになった。

開胸手術は痛みを伴う手術のため、術前から鎮痛剤投与、術中はビブバカインによる局所の浸潤麻酔や胸腔内投与、術後にもフェンタニールパッチによる鎮痛処置を行った。また閉胸する際に肋骨の後方の神経・血管を圧迫しないように肋骨の小穴に糸を通して、切開創を縮めてから肋間筋を縫合するようにした。このことにより術後の肋骨の痛みがかなり改善される。

手術により摘出した右肺後葉と腫瘍が写真⑦に示されている。摘出した肺葉には空気が入っていないとかなり萎縮して写真の様に小さく見えるが、腫瘤は白っぽく盛り上がっているのが認められる。

病理組織検査の結果は肺癌と乳腺癌:肺の腫瘍は動物では発生頻度は1%以下といわれ、まれな腫瘍といえる。ただ犬の悪性肺腫瘍の71%に血管やリンパ管への腫瘍細胞の浸潤があり、23%で肺門リンパ節を超えた遠隔転移が見られ、最も転移率の高い腫瘍は扁平上皮癌と未分化癌で肺癌や気管支肺胞腺癌は転移しにくいとされている。

どちらの腫瘍も切除した組織の断端には腫瘍細胞は存在しなかったが、切除した乳腺癌の一部に癌細胞の脈管(血管内)浸潤を疑わせる像が見られたということなので、今後の転移発生に十分な注意が必要だ。また通常は乳腺癌が肺に転移するのが一般的で、この症例でも乳頭状腺癌の形態で肺胞内に腫瘍が広がっていた様なので、乳腺癌の肺転移と考えて良いかもしれない。

写真①(楕円形) 写真②(円形)

写真③

写真④(矢印で示した所が腫瘍)

写真⑤(下の矢印が肺後葉のマス:白い部分)

写真⑥(白く円形の部分)

写真⑦(摘出した腫瘍を含む肺葉:肺は縮んでいる)

 

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