犬の脾臓の起源不明肉腫

8歳半の雌のヨークシャーテリアが膝の上から落ちてから具合が悪くなったという主訴で来院。元気消失、粘膜貧血色、腹部膨大、腹部の触診で前腹部から中腹部にかけてのマス(腫瘤)の触知。血液検査では重度の貧血と白血球(好中球)増多、ALPの上昇があった。X線検査では腹部中央部のマスと腹部全体のスリガラス状陰影(写真①②)。超音波(エコー)検査では脾臓から発生したいくつかの腫瘤が存在することが分かった(写真③④)。腹腔内には液体が貯留していることも分かった為、すぐに輸血を準備開始し、その日の内に手術を実施した。開腹した途端に腹腔内の血液が見えたため、それを吸引し、シーリングシステムにより脾臓の血管を止血離断して、脾臓の全摘出術を行った(写真⑤⑥)。取り出した脾臓のマス(写真⑦⑧)

腹腔内の出血は膝の上から落ちた時に腹部をぶつけて、脾臓の腫瘍から出血したと考えられた。

病理組織検査の結果は脾臓の起源不明肉腫だった。またこの腫瘍は海外ではfibrohistiocytic nodule of spleen として報告されており、腫瘍内を占めるリンパ球成分の量でグレード分けしている。この文献によると一年生存率がグレードⅠで57%、グレードⅡで61%、グレードⅢで32%と報告されている。この子は細胞異型や核分裂像が比較的顕著で、腫瘍内のリンパ球成分がやや乏しいことからグレードⅢの悪性度の高い腫瘍の可能性がある。一部の静脈内に腫瘍細胞の浸潤が確認されているので、肉眼的な異常はなかったものの、肝臓への転移などに十分な注意が必要である。

写真①

写真②

写真③

 

写真⑤      写真⑥

写真⑦

写真⑧

 

 

 

 

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