犬の皮下膿瘍後の大きな壊死哆開部のwet-to-dry法による治療

飼い主の方は頬が腫れてきたので、虫にでも刺されたのではないかとおっしゃっていたが、恐らく他の犬に襲われたことがあり、その時瞬間的に噛まれていたのを気が付かずにいて、そこに咬傷による化膿(膿瘍)を形成していたと考えられる。毛を刈って確認してみると皮膚表面は壊死をしており、内側には液体がたまっていた。内用液を採取して検査してみるとまさに血膿(赤血球、細菌と好中球、変性好中球、マクロファージ、細菌の貪食像)であった。その後切開排膿、生食水で十分な洗浄後、壊死部のデブリードメンを行ない、ガーゼ交換はwet-to-Dry法による2~3回

/日、その後肉芽組織が十分上がってから、傷の縮小、そして1か月以上かかったが完治となった。

フラットコーテッドレトリーバーの組織球肉腫

12歳の雌のフラットコーテッドレトリーバーが左後肢の跛行で来院。左後肢の膝関節の腫脹があり、X線検査で関節周囲が腫脹しており、大腿骨遠位の僅かな骨融解と骨膜反応があった。また関節液も貯留していたため、関節液を採取して検査したところ、好中球は多かったが細菌の貪食像はなかった。腫脹している関節周囲の組織に針生検をして細胞診をしたところ、かなり悪性度の高い大型の非上皮性腫瘍細胞が多数みられた。そこで後日全身麻酔下で組織を一部採取し、病理組織検査を実施。その結果この犬種に特に多い組織球肉腫であることが判明した。飼い主の方とご相談の上、現在と将来増加する痛みをとってあげるというQOL向上の目的といくらかでも周囲の転移を防ぐ目的で、左後肢の断脚手術を選択された。この子は元々犬には珍しい皮膚の好酸球性肉芽腫が数年前から耳介や顔面、足先などに発生し、その度ステロイド剤により治療して改善していた。そして現在も隔日で投与していたが、手術してから抜糸するまではこのステロイドを中止することになる。また術創の治癒の遅延が考えられるため、2週間以降の抜糸となる。

猫の尿管結石に対するSUBシステム手術

5歳令、去勢済みの男の子です。他院にて尿管結石の手術治療を4ヶ月前に実施したものの、手術の際に設置したチューブ(尿管ステント)の閉塞を繰り返していたため、再手術を目的に、当院に紹介来院されました。術前検査において、右側の腎臓の機能が乏しいことが超音波検査から分かり(写真1)、すでに二回手術を行っている左側の腎臓にも、腎臓の内腔(腎盂)の拡張所見がみられました(写真2)。そこで、このままでは尿を排泄することができず、腎臓の機能不全に陥る事が予想されたため、腎臓と膀胱の間を特殊なチューブでつなぐバイパス手術(SUBシステム手術)を行うことになりました。この手術方法はアメリカで開発された比較的新しい手術方法ですが、猫や犬の尿管閉塞の治療において、尿管ステント手術と比べ閉塞する事が少なく、優れた治療方法です。当院では主に、猫や犬の尿管結石の治療に、この手術方法を選択しています。

(写真1と2)

以下が術後の写真になります。バイパス手術(SUBシステム手術)

若いチワワの食道内異物(白菜の芯)

若いチワワが白菜の芯ごと吞み込んでしまい、苦しそうになったので夜間救急来院した。来院時は元気なく呑み込もうとする動作を繰り返していた。X線検査をしたところ心基底部の尾方の食道に直線の面とその後方の白い食道拡張部を確認。催吐処置をしても嘔吐できなかったため、すぐに全身麻酔下で内視鏡検査及び処置をすることになった。結局シリコンチューブの中に内視鏡を入れて観察しながら、そのシリコンチューブにより、胃内に押し入れた。写真はX線写真での食道内異物(白菜)の位置の確認と、内視鏡での食道内の白菜の確認及びシリコンチューブを利用した胃内へ押し入れている処置中の写真と胃内に入った白菜の芯の部分。

 

 

トイプードルの頸椎骨折

生後4か月半のトイプードルが飼い主に飛びついて着地に失敗してしまい、それからかなり痛がってキャンキャン泣いているという事で来院。レントゲンで第2頸椎の骨折が認められた。骨折の状況によっては手術も検討しなければならないため、CTとMRI検査をしていただいたところ、脊髄神経に対する影響がほとんどなかったことと、頚椎の離断部のズレなども最小限で、年齢も若いので、保定器具の装着による外固定で治療することになった。経過は良好で1週間ほどでほとんど痛がらなくなっており、しだいに動きが活発になってきているため、安静に保つことが難しくなってきそうだ。下の写真はX線写真とCT画像、そしてコルセットを装着している状況。

 

 

犬の後肢膝関節尾側の皮膚肥満細胞腫の切除

中年のミニピンの後肢膝関節尾側の皮膚肥満細胞腫を切除することになった。ただし腫瘍周囲の切除マージンを2㎝とすると、後肢の膝関節付近の皮膚に余裕がないため、そのままでは縫合できない。従ってあらかじめ皮膚フラップ(皮膚弁)による置換術を想定した切除線を描き、それに沿った手術を実施した。写真は術前と腫瘍切除時、リンパ節郭清した時のリンパ節、術後の状況、そして抜糸後の写真。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雑種犬の手根関節の関節炎による変形・亜脱臼の整復手術

雑種の老犬が最近次第に痛そうになり、跛行を呈するようになってきたという事で来院した。レントゲンで手根関節が靱帯の損傷を伴って、慢性の関節炎と脱臼を伴い、異常な関節の腫大と変位が見られた。このような重度の靱帯損傷による関節炎を伴う脱臼は関節固定術が適応となる。今回DCPと螺子による関節固定と関節内の海綿骨移植により手根関節の固定手術を実施した。写真はX線写真の術前術後と手術経過を順に示す。

 

 

若齢の雑種犬の腸重積

2歳の雑種犬が慢性の下痢の後、食欲廃絶、嘔吐があったため、検査をしたところ、エコー検査で典型的な小腸の重積を示唆する画像が認められた。手術により修復して元の状態に戻したところ、あまり時間が経っていなかったので腸管の色も悪くなく、血行障害は軽度だったため、すぐに閉腹して終了した。静脈点滴と食事療法を5日程続けることで食欲ももどり、症状も安定したため退院していただいた。腸重積の特徴的なエコー画像と術中の写真を下に示す。

猫の血球貪食性組織球肉腫

7歳の雄の日本猫が1週間くらい前から食欲がなく、嘔吐があるという事で他院にて受診し内服薬で治療を受けたが、芳しくなかったため当院に転院。来院時は食欲元気なく、嘔吐、発熱があった。血液検査で、ヘマトクリット12.6%(再生像あり)白血球はストレスパターン以外は異常なし。血液化学検査では総ビリルビンが高く、黄疸があった。赤血球の寄生虫のベクター検査はすべて陰性。クームステスト(-)。X線検査では脾臓のマス様病変が認められ、エコー検査によりそれが確認されたため、ニードルバイオプシーをしたところ、細胞診の結果は赤血球やリンパ球を貪食している類円形から多形性の大型細胞が多数みられ、核の異常として複数核や奇数核をもったいわゆる多核巨細胞が多く認められた。貧血が重度なため輸血をしたが、翌日ヘマトクリット22%だったものが2日目には17%になり、二度目の輸血を実施。免疫介在性溶血性貧血による黄疸とも考えられたため、ガンマーガードによる治療もしたが、更に貧血をしてきたので、三度目の輸血も行った。そこで脾臓摘出手術を行い、その病理組織検査を行ったところ、赤血球貪食性組織球肉腫という診断が出た。この腫瘍はかなり悪性度が高く、転移性も高いので、厳重な経過観察が必要。またこの腫瘍は猫では非常に珍しい腫瘍で症例発表や治験例がごく少ないため、今後の治療が難しいが、4回目の輸血が終わった後、とりあえずは脾摘後1週間のところで、ステロイドの使用開始。ロムスチンの併用についてのご説明もさせて頂きましたが、それをやっても生存期間が107日という報告があったため、それ以上の治療は希望されず、5回目の輸血後、自宅で看取ることを選択された。

腹部のX線写真(脾臓のマスの確認)

脾臓のエコー検査(大小のマス病変)

摘出手術中の脾臓

 

 

 

 

 

 

犬の爪下上皮の角化棘細胞腫

15歳のミニチュアダックスが後肢の跛行で来院。第3指全体と爪床部の腫大があり、X線検査をしたところ、爪床と指骨遠位の骨融解像が見られた。このままでは悪化し、歩けなくなるだけでなく、悪性腫瘍であれば肺やその他の臓器に転移し、寿命が著しく短くなる。このことを飼い主様にご説明させていただいたところ、手術により腫瘤ごと断指することになった。切除した腫瘤の病理組織検査結果は角化棘細胞腫だった。これは良性の腫瘍に分類されるため、予後は良好である。写真は術前術後とレントゲン写真。