紀州犬の脾臓捻転

8歳の雄の紀州犬が急に虚脱して座り込んでしまった。貧血しているようでふらふらしているという症状で、緊急来院した。確かに粘膜の色は貧血色だが、聴診で心音が弱く、不整脈もあった。粘膜再充当時間が遅延し、ショック状態だった。腹部は全体に腫大しており、触診すると実質感があった。レントゲン写真とエコー検査で、巨大化した脾臓とカラードプラーにより、脾臓内の血管内の血流がほとんど無いことと、静脈内に血栓もみられた。以上のことから脾臓捻転と診断した。血液検査では中等度の貧血と白血球増多(好中球・単球増多)とストレスパターン、および血小板の中等度低下がみられたが、それ以外の異常は無かった。心電図検査では心室性頻拍が散発的に発現。来院してすぐに静脈点滴を開始し、ショックに対応した治療に入った。検査結果を確認し、脾臓捻転と診断してすぐ、開腹手術を実施。脾臓の捻転を確認し、捻じれを戻しても脾臓の黒ずんだ色は戻らなかった為、脾臓の摘出手術を行なった。他臓器に異常がないことを確認し、閉腹。その後は翌日から食事を食べだし、歩いて外でトイレができるようになった。その後は回復も早く4日目には退院することができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小型犬の腎細胞癌の1例

1週間前から血尿が出ているという症状で来院。薄めの赤色尿で頻尿ではない。尿が採取できなかったので、血液検査を実施、白血球の単球のみやや高値、SDMA24、それ以外はすべて正常。X線検査にて左腎の腫大。エコー検査で左腎尾方のマス(直径約6センチ)を確認。FNBによる細胞診をした結果、上皮系の悪性細胞(大小不同・核の悪性所見・かなり大型の細胞)であることが分かり、腎細胞癌と診断。飼い主様とご相談の上、副作用の少なめの分子標的薬を低用量のEODで実施することに。

好酸球性気管支肺症を疑った犬

『1ヶ月前から咳が出ていて、抗生物質などの治療をしているが良くならない』との主訴で来院された犬。

身体検査では発熱があり、肺野全体にクラックルが聴取され、肺野全体の病変が疑われました。胸部レントゲン検査では、肺野で間質パターン、気管支パターン、肺胞浸潤や気管支の拡張が見られました。

血液検査では、好酸球が顕著に増加していました。

ここまでの治療経過および検査で【好酸球性気管支肺症】を疑いステロイドによる治療を行なったところ1週間ほどで咳はほとんど出なくなり、レントゲン所見も改善しました。約1ヶ月かけてステロイドを漸減して治療を終了としました。

ラテラル像 左:治療後、右:治療前

VD像 左:治療後、右:治療前

好酸球性気管支肺症の確定診断には気管支鏡検査を行い、気管支肺胞洗浄などよる検体にて好酸球の浸潤を確認する必要がありますが、本症例はオーナー様と相談の上、試験的治療に入りました。経過は良好でしたが、再発に注意が必要です。

散歩中に蜂に刺された犬

夕方の散歩から帰宅して足を拭こうとしたら『蜂』が出てきて、その後、足を上げてしまい痛がっているとのことで来院。

肉球の間は赤く炎症を起こし、全体に腫れ上がっている状態でした。

肉球を良く観察すると、まだ針が残っておりそれを抜去してステロイド含有の軟膏を塗布し、舐めないようにエリザベスカラーを装着しました。また、患部への局所治療として軟膏、抗ヒスタミン薬とステロイド薬の内服を処方しました。2日後には患部の炎症はなくなり腫れも引きました。

 

足から出てきたハチ

 

肉球に刺さっていた針と毒袋

蜂に刺されるとハチの種類にもよりますが、針と共に毒袋が残されます。そのためその毒袋から毒が体内へ送り込まれるので早急に抜いてあげる必要があります。

犬猫の場合は、この針と毒袋が皮膚の色や体毛によって見えにくく、また、痛がって大人しく見せてくれないことがあるため動物病院で診察することをお勧めします。

他院で手術をした後重度の結膜と癒着していたチェーリーアイの整復手術

他院で手術をした後重度に結膜と癒着して眼球が見えない状態になっていたチェーリーアイ(左)の中型犬の整復手術を実施。第3眼瞼(瞬膜)は露出したままになってしまうが、瞬膜内側の大きく腫れたリンパ組織は元の位置に戻っている(右)

 

 

 

寒くなってくると多くなる雄猫の尿閉に外科手術「尿道瘻形成術」が必要になる時

雄猫の下部泌尿器疾患に罹患すると尿中の血餅やタンパク質から成る尿道栓で閉塞したり、膀胱内に形成する細かな砂粒状の結石がペニスの先端近くに集積して、尿閉になったりする。それらの尿閉に対する治療は緊急性があり、時間の経過とともに腎後性腎不全に陥るため、できるだけ早期に尿道にカテーテルを挿入し、閉塞物を取り去り、十分膀胱内を洗浄をする。しかし一時的に改善しても、結石予防の療法食がうまくいかなかったり、再発を繰り返す場合に、尿道瘻形成術を行うことにより、尿道を広げることで、小さな砂粒状や、1~2mmの結石は尿道を介して、排尿により結石が排出される。

 

 

術前の位置関係(上部に肛門、下部にペニス)

 

 

 

術中のペニスの付け根の尿道の広い部分を示す

 

 

手術直後の尿道留置バルーンカテーテル装着↓

猫の下眼瞼の睫毛内反の整復手術

猫の乳腺癌の片側全切除

乳腺癌の診断がついた高齢猫の片側乳腺全切除(リンパ節郭清も含む)を行なった。術創が広いため、減張縫合を施し、皮下にはドレイン付き陰圧バッグ吸引器を装着した。4日目には減張縫合も抜糸、吸引された漿液も2mlになったためドレインも抜去。術後10日~14日ですべての抜糸。抜糸後約1ヶ月で残った反対側の乳腺片側全切除を実施する。猫の乳腺癌は悪性度が高く、近隣臓器、特に肺転移が多いが、全身どこへでも転移の可能性がある。

胃拡張・胃捻転を起こした超大型犬の1例

 胃内に大量にガスが貯留し、胃拡張・胃捻転を起こした中年の超大型犬が呼吸促拍の状態で来院した。外で遊んでいたら急に立てなくなり、ふらふらし始めたとの主訴であった。身体検査を行ったところ、腹部がパンパンに張っており、レントゲン画像上で胃の中に大量のガス貯留が認められた。すぐに留置針を用いて胃内ガスを排出したところ、呼吸は少し落ちついた。状態が落ち着いたところで胃の捻じれを整復し、胃の位置を固定する手術を行った。
胃の位置は本来の位置から180度回転して捻じれており、胃の中にはガスと貯留液が溜まっていた。
胃拡張・胃捻転は急速で致死的な進行をする疾患であり、放っておくと不整脈、虚血、多臓器不全などを引き起こし危険な状態に陥る。胃内のガスを抜くだけでは再発を起こしやすく、手術により胃を正常な位置に固定し、胃の内容物を取り除く必要がある。
この疾患は大型犬や、胸の深い犬で起こりやすく、発生原因としては、大量の食事を早食いすること、布などの異物を飲み込むこと、運動後や暑熱環境で呼吸が早くなり空気を大量に飲み込むことなどが考えられる。
もしも疑わしい症状が出た場合にはすぐに病院にご連絡することをお勧め致します。

           OPE前の胃

           OPE後の胃

特発性間質性肺炎を疑った犬の一例

1歳の秋田犬が呼吸が早いとのことで緊急来院した。レントゲン検査では肺全域の不透過性亢進、肺胞パターン、間質パターンが認められた。血液検査では白血球の軽度上昇、それ以外は正常値だった。

肺が白く写ってしまう病気はたくさんある。鑑別診断としては肺炎、肺水腫、腫瘍などがある。年齢のことを考えると腫瘍は考えにくい。肺炎ならば咳が出たり、CRP(炎症のマーカー)の上昇が認められることが多い。肺水腫ならば心雑音や肺胞パターンのみが認められることが多い。これらのことから診断に苦慮していた。

その日に日々勉強している獣医師サイトの質問コーナーにて米国獣医内科学専門医の佐藤雅彦先生に相談する機会を頂いた。特発性間質性肺炎が疑わしいとの返答を頂いた。確定診断には麻酔下にて気管支肺胞洗浄回収液(BALF)が必要になるが、全身麻酔のリスクを考慮し、試験的に治療を開始した。ネブライザー(ゲンタマイシン、ムコフィリン、ビソルボン) BID、バイトリル(エンロフロキサシン) 5mg/kg SID、ブリカニール(テルブタリン) 0.1mg/kg SIDを5日間行ったところ、見事に改善した。治療的診断が功を奏した一例だった。

 

治療前

治療後