ゴールデンレトリーバー(中年齢)の気胸

数日前から呼吸がおかしかったかもしれないが、昨日から明らかに呼吸が苦しそうということで来院。聴診上、左胸部の心音がかなり聞きとりにくかった為、X線検査を実施したところ、胸骨から心尖部が離れ、胸腔内に無構造のスペースが存在し、左の肺が収縮している画像が得られたため、気胸と診断し、すぐに留置カテーテルを使用し、漏れた空気を吸引し、その後低陰圧持続吸引機で完全に吸引できなくなるまで処置を続けた。その後酸素室にて安静を保った後、翌日レントゲン検査で漏れのない事を確認し、帰宅していただいた。肺のレントゲンで分かるくらい大きなブラ又はブレブが存在していた為、安静に勤めていただくように注意をさせていただいたが、退院後約1週間を過ぎた頃、再度以前同様の呼吸になって再来院した。今度は胸腔チューブを留置して漏れた空気を吸引し、その後状態が安定しているのを見計らって、応急処置として自家血を採取し、すぐに胸腔内にそれを注入し、穴の開いた肺の表面に血液が固まってシールしてくれることを目的に実施した。一時的に安定していたが、翌日になって再度気胸になったのと、胸腔チューブが閉塞して働かなくなったため、最終手段として肺葉切除しかないと考え、提携病院である日本動物高度医療センターに依頼して手術をしていただいた。CT検査の結果、X線検査でも見えていた大きなブラ又はブレブの存在が気胸の原因と考えられるということで、やはり肺葉切除以外に方法はなかった。術後の経過は良好で1週間ほど入院した後退院となり、現在も元気に過ごしている。

 

左のX線写真は初診時のラテラル像での気胸を示し、右は処置後心臓の頭側に大きなブラが見える

 

 

左のX線写真は初診時のVDでの気胸、右は処置後

 

下はCT画像で矢印の部分が大きなブラを示す

巨大食道症の犬

巨大食道症の犬

 

13歳の犬が「ここ数日吐いていて食欲がない」との主訴で来院しました。

 

身体検査にて可視粘膜がやや白く、重度の脱水がありました。また、吐き方を見ると嘔吐ではなく吐出(口や食道から吐き出すこと)であったため食道の疾患が疑われました。
血液検査では軽度の貧血、白血球数の増加や腎臓の数値(BUN、CREA)の上昇、甲状腺の数値(T4)が0.6μg/dlと低下していました。
レントゲン検査では消化管内には多くのガス貯留像があり、食道は拡張していました。

患者情報や検査結果を踏まえて巨大食道症と診断しました。

巨大食道症は副腎皮質機能亢進症や甲状腺機能低下症、重症筋無力症、腫瘍などの基礎疾患により惹起される場合や原因不明によるもの(特発性)があります。

オーナー様と相談により原因追求(基礎疾患の探査)は行わずに対症療法をしていくこととしました。

静脈点滴による脱水の緩和、消化管運動を亢進させる薬、食道炎・胃酸分泌を予防する薬、重症筋無力症の治療薬、甲状腺機能低下症の治療薬を同時に開始しました。

巨大食道症では食道の筋肉が機能しなくなっているために、食事が胃へと通過できずに食道内に停滞してしまいます。そのため、食事の際は器を高い位置に置くことで重力により食事が胃に流れやすくなります。さらに食後は抱き抱えて体を縦にするなど日頃の生活も工夫しました。患者様の協力もあり、定期的に皮下点滴をして食欲も戻り、吐出の頻度も劇的に少なくなりました。

 

巨大食道症は食道の筋肉が何らかの原因により機能を失い、食道が拡張し蠕動運動が低下することで、食物が食道に滞ってしまうことが問題となります。そのため吐出を繰り返し、吐出したものを吸い込むことで誤嚥性肺炎を起こします。
どうしても吐出が治まらない、ご飯も食べられない場合は、胃チューブを設置しチューブからご飯を入れて管理することもあります。

日本猫の表皮に散在したボーエン病/ボーエン様疾患が皮内扁平上皮癌や扁平上皮癌となっていた症例

体表の肩甲部や上腹部や四肢に散在した皮膚病変がここ1ヶ月くらいで急に増大傾向になって来たということで来院。肩甲部の病変は大きな角化物(横軸2cm高さ3センチ)になっており、右胸壁の皮膚病変域は十数センチにわたり、複数個所に散在し角化していた。四肢の皮膚にも角化物を伴った病変が散在。切除バイオプシーを4か所行ない病理組織検査を行った所見はいずれの皮膚病変もボーエン病/ボーエン様疾患であり、1ヶ所で深部に浸潤する扁平上皮癌、その他は浸潤性を伴わない皮内扁平上皮癌になっていたというかなり珍しい症例だが、当院では皮膚のボーエン病は今回が2症例目となる。

 

 

 

 

 

フェレットの胃内の毛球症と膵臓の腫瘤と脾臓のマスの外科手術による切除

老年のフェレットが元気消失、慢性嘔吐と下痢を呈していた為、血液ルーチン検査とX線検査・エコー検査を行ったところ、脱水と腎機能低下、低血糖、脾臓の低エコー部の存在などが判明したため、静脈輸液をメインとした治療を実施した後、状態が改善傾向になってから、触診で判明した胃内異物の摘出手術と必要があれば脾臓摘出、膵臓のチェックにより、腫瘤などがあればそれも摘出することになった。

胃切開により、胃内異物(毛球)摘出

 

 

 

膵臓の2か所に硬い腫瘤を触知したためいずれも切除           (病理検査:膵臓結節性過形成)

 

 

脾臓には複数の隆起部が認められたため、脾臓全摘出手術を実施。(病理検査:うっ血並びに髄外造血)

 

猫の会陰尿道瘻形成術

猫の雄、特に去勢した雄猫に多い尿道塞栓症や尿道結石による尿閉は、今回のように大きい結石がペニスの先端付近に閉塞し、さらに頭側に複数の小さめの結石ががっちり重なって閉塞してしまうと、逆行性に水圧をかけたり、超音波振動を利用した方法も難しいので、最終手段として会陰尿道瘻形成術を行なうことになる。膀胱圧を下げるために穿刺により尿を排出させた後、点滴により腎機能を改善させつつ、手術を実施した。BUNやCreの数値はオーバーだったが、術後3日目にはほぼ正常になり、元気や食欲も改善してきた。術後の食事療法は大切。

左写真:術前10日前に存在した膀胱結石

右写真:ペニスの全域に結石が詰まっている。一番大きな結石が先端に存在。

 

左写真:ペニスの尿道切開して結石を取り出したところ

右写真:尿道球腺まで露出して、尿道を切開し粘膜と皮膚を縫合して終了

下は術後の写真

 

 

 

 

肛門周囲の腫瘍(肛門周囲腺腫と肛門周囲腺癌)

肛門周囲腺の腫瘍には腺腫と腺癌があるが、見た目は同じ様でも予後が異なるため、予め細胞診やバイオプシーにより、悪性か良性を鑑別してから手術する。写真上部の2枚は肛門周囲腺癌、下の2枚は肛門周囲腺腫

 

 

 

異物摂取の子犬

『マスクを食べてしまった』
との主訴で子犬が来院しました。

来院の際に飼い主様にはマスクの残っている部分を持ってきてもらいましたが、半分位は食べてしまっているようでした。

食べてすぐに来院していただいたので、催吐処置を行いました。
(催吐処置は薬を静脈注射することで行いました)

左側が出てきたマスク、右側が持ってきていただいたマスク。

世界的なコロナのパンデミックにより日常生活にマスクは必須となっています。
特に子犬は好奇心旺盛でイタズラする対象を探していて、マスクは飼い主様の匂いが付いているために犬猫にとってはいい遊び道具になってしまいます。
(猫もマスクのゴムの部分などで遊び噛み切って食べてしまいます。)

自宅内でのマスク管理にご注意ください。

もしも異物を食べた可能性がある場合、自宅に残っている食べた可能性のある物を持参していただくと診察の助けになります。

フクロモモンガの自咬症

フクロモモンガの女の子が4-5日前からの下痢とのことで来院されました。

『下痢の直後からおしりを気にしはじめ、あっという間にひと晩でおしりに穴が開いてしまった』とのことでした。

総排泄孔は硬く血行不良を起こし、正常な状態への治癒は見込めないと考えられました。

生涯傷口からの排泄をするようになってしまう可能性があり、今後もずっとカラーをつけた生活になってしまうかもしれません。

この子は傷から便や尿が出ていたため、一命はとりとめてくれそうですが最悪の場合、死に至る可能性もありました。

 

フクロモモンガは自咬で、場合によっては自分の内臓まで引きずりだしてしまうこともあります。

《フクロモモンガが体のどこかを気にして自咬を始めたら、傷になってしまう前にすぐカラーをする。》ということが大切です。

エキゾチックアニマル科担当獣医師 大竹亜希子

エキゾチックアニマル診療時間:毎週土曜日・その他不定期

  • ウサギ、フェレット、ハムスター、モルモット、ハリネズミ、フクロモモンガ、チンチラ、小鳥など。
    詳しくはお問い合わせください。

動的右室流出路閉塞の猫

17歳の猫が
『3ヶ月前から耳のかさぶたが治らない』
との主訴で来院されました。

耳のかさぶたは両耳にありましたが、特に右耳からの出血が多く猫もそこを気にして引っ掻くために出血を繰り返してしまい、エリザベスカラーをして引っ掻くことを防いでもやはり出血を繰り返すということでした。
耳の細胞診検査では『扁平上皮癌疑い』でした。
(この猫の毛は白色でしたが、白色の猫には耳の扁平上皮癌が比較的多く見られます


血液検査では慢性腎障害Stage2でした。
身体検査ではハッキリとした心雑音が確認されましたが、こちらは2年前より他院にて心筋症との診断から内服薬を続けているとのことでした。

エリザベスカラーをしていても出血を繰り返し、猫のQOL(生活の質)が低下している状態でした。飼い主様も出血を繰り返す猫を見ていて精神的に辛かったと思います。しかし、17歳という高齢になっていること、以前より心臓病(心筋症)との診断で治療を受けていることから麻酔をかけることが心配とのことでした。
そこで心臓の精査のために、レントゲン検査、心電図検査、超音波検査を行いました。
レントゲン検査、心電図検査では異常所見はありませんでした。
超音波検査では心筋肥大は無く、心臓の運動性も異常はありませんでした。
ただし、『動的右室流出路閉塞』というものがみられました。
これは右心室から肺動脈にかけての流出路が狭くなる時があるために、血液の流れが高速になってそこから雑音が生じているというものです。

この状態であれば心臓に関して麻酔は問題なく行えると判断しました。

手術は問題なく終了し、病理組織検査の結果は『扁平上皮癌』とのことでした。

猫の聴診は犬よりも難しく、雑音があっても正常であったり、雑音が無くても異常があることがあります。慎重な判断が必要とされます。

直径3ミリの細径内視鏡による膀胱結石の摘出

8歳の雄のマルチースが膀胱結石を繰り返すため尿道ろう形成術を実施ししたが、X線検査とエコー検査により再度膀胱結石(3mm×4mm)の存在を確認したため、直径3ミリの細径内視鏡にて摘出処置を行なった。