猫の肝リピドーシス(脂肪肝)に大切な(胃瘻チューブによる)食事管理

9才の猫が以前から重度の便秘で治療していて、最近になり食欲が低下していたが、食欲が無くなって6日間程たって来院し検査をしたところ、肝臓の酵素(ALT・AST)が上昇し、胆道系の障害もあり(ALP)も上昇、さらに黄疸(総ビリルビン上昇)が出現していた。肝臓が以前からみると腫大していたので、針生検(FNA)により細胞診をしたところ、脂肪肝になっていた。猫ちゃんの状況(重度慢性便秘や合併症)や性格などを考え、胃チュ―ブの設置をご提案したところ、同意が得られたので、胃造瘻チュ―ブを麻酔下で設置。その後チューブフィーディングにより少量づつ頻回投与から徐々に容量を増やし、体重管理をしながら、飼い主様に通院していただき、十分家庭でできるようになってから、自宅でチューブ周辺の衛生管理も含めて実施していただいた。胃チューブ設置後約2週間で黄疸は無くなり、肝酵素も正常になっていった。最終的に1か月半ほどで、やっと胃チューブからでなく、自力で食べるようになったため、2か月後にチューブを抜去することができた。平均的には長くとも1ヶ月前後で抜去することが多いが、今回の場合は重度の便秘と肝障害が強かったこと、さらに口唇部粘膜に化膿性肉芽腫の存在や重度歯周病による動揺歯が2本あったことなどが重なり、自分から採食し難かったと思われる。現在は歯科治療と化膿性肉芽腫切除も終え、元気になり通常通りの食事ができている。猫の肝リピドーシス(脂肪肝)にはこの胃チューブによる食事管理が欠かせない治療方法になっている。

胃チューブ装着の様子

胃チューブのX線による確認

内視鏡で胃内から見たチューブ先端の形状

犬の(免疫介在性)多発性関節炎

呼吸困難、発熱などを主訴にラブラドール・レトリバーが来院しました。
数件の病院で様々な検査をしていただいたそうですが、原因が分からず行った治療にも反応がなかったとのことでした。

当院に来院した際には体温が39.7度と発熱があり、そのために呼吸が荒い状態でした。
身体検査をすると、左右の手根関節の軽度の腫脹があり屈曲時に疼痛がありました。
歩行時にはぎこちない前肢を突っ張ったような歩き方でした。

血液検査では白血球数の増加があり、好中球増多症、単球増多症でした。
血液化学検査では異常所見は無く、炎症のマーカーであるCRPは高値となっていました。
胸部・腹部レントゲン検査、心電図検査、超音波検査などでは異常所見はありませんでした。

手根関節を含めた複数関節の関節液を採取して細胞検査すると、本来粘稠性があるはずの関節液の粘稠性が無く、好中球が多数観察されました(正常であれば好中球はいません)。
抗核抗体、リウマチ因子の検査では問題ありませんでした。

各種検査の結果より(免疫介在性)多発性関節炎と診断しました。
免疫介在性関節炎は自己免疫が関節を構成する組織を標的にして炎症を引き起こす非感染性関節炎です。
治療としては、非ステロイド剤、ステロイド剤、抗リウマチ薬、免疫抑制剤などの内科的治療を行います。

今回のラブラドール・レトリバーでもステロイド治療を行い、治療直後より熱も下がり元気・食欲とも回復し、関節の痛みも消失しました。
今後は症状をみながら徐々に薬を減量する予定でいます。

犬の子宮体部の平滑筋腫

老齢の小型犬が1~2ヶ月ほど前から徐々に便が扁平になってきたが、最近排便に時間がかかるようになってきたという主訴で来院。腹部触診で下腹部に硬い腫瘤を蝕知したため、X線検査及び超音波検査を行った結果、骨盤腔から頭側に向かって幅3cm以上×長さ6cm近くの腫瘤が存在し、これが結腸を圧迫していたことが分かった。周辺のリンパ節の腫大や各臓器の異常はなく、血液検査でも特に異常が見られなかったため、腫瘤の摘出手術を実施した。写真は術前に行ったX線写真と術中の経時的に見ていった子宮の腫瘤摘出手術の様子。子宮の漿膜下で剥離して血管や神経に障害を与えないように、くり抜いていく感覚で切除していった。病理組織検査結果は子宮の平滑筋腫だった。

 

猫の肋骨から発生した骨軟骨腫

10歳の雑種猫が健康診断で左側胸腔内1/3を占める腫瘤を発見、ほとんど症状はなかったが、飼い主の方とのご相談の結果、これ以上進行すればいずれにしても呼吸器系の症状や食道や胃などの消化器症状も出現する可能性があること、また万一悪性の腫瘍であれば周辺の骨組織にかなり進行性に増殖していく可能性もあることから、腫瘤の切除手術を希望された。手術は腫瘤内に含まれる肋骨3本を含んだ切除手術になり、横隔膜にも癒着があったため横隔膜もかなりの長さ切除になった。そのため胸腔壁がかなりの欠損になるため、メッシュを用いてその部分を補うことにした。写真はX線の画像とCT画像および術中の様子を示す。病理組織検査の結果は骨軟骨腫という基本的には良性腫瘍だが、悪性化することもある。またこれが多発する場合には骨軟骨腫症と呼ばれる進行性疾患になるので、再発に注意し、新病変形成に関する経過観察が必要です。

 

 

犬の前十字靭帯断裂(TPLOによる修復手術)

 

『前十字靭帯』は膝関節の中にある靭帯のひとつで、膝関節の過度な伸展を防止し、脛骨の前方への動揺と過度な内旋を制御している。

そのため、膝に過剰な力がかかったときに断裂してしまうことがある。

 

犬では、運動時に断裂がおこることはまれで、そのほとんどは加齢性および変性性変化があらかじめ靭帯に生じており、そこに負荷がかかる(散歩や階段の昇降といった日常生活での運動でも)と後押しになり、前十字靭帯が損傷・または断裂する。

 

症状は、前十字靭帯が部分断裂または完全断裂なのか、急性または慢性なのか、半月板損傷の有無によりさまざまな跛行(足を引きずる)がみられる。

 

前十字靭帯断裂に対しての治療は、外科手術が第一選択とされる。

当院では、症状が軽度・体重が軽い・外科療法を行ったときに合併症の発生リスクが高いと判断される症例に対しては、運動制限や鎮痛薬・サプリメント投与などによるの保存療法を行っている。

 

外科手術が適応になった症例には『TPLO(脛骨高平部水平化骨切り術)』という下腿骨の脛骨の関節面の角度を変える手術を行っている。

当院の手術室にはCアームという外科用のデジタルX線画像診断装置があり、手術中にリアルタイムで骨やピン・プレートの確認をおこなうことができる。

 

膝関節を露出し、断裂した前十字靭帯の処理と剥離していた半月板軟骨の切除をおこなった。(写真の症例はラブラドール・レトリーバー)

大腿骨と脛骨に固定具を装着し、脛骨近位を切断する半円形の器具を使用しているところ。

CアームX線装置で脛骨の角度を決めて、プレートと螺子できちんと固定されているかの確認をした。

 

術後のX線写真で膝関節が良い角度に修復されているのが分かる。

 

 

当院では、毎週火曜日と日曜日(午前中)に整形外科(長澤先生)の診療を行っています。

詳細はコチラのHPよりご確認ください。

http://www.hah.co.jp/specialist/geka.html

ネコの腟脱

5才のネコ(バーマン)が自宅にて4頭の子猫を出産し、その後さらに力んで膣が脱出してきたとのことで来院された。
来院された際は、7〜8cmの長さで膣が脱出しており粘膜からの出血、血行不良のため黒ずんだ部位も見られた。また、膣が脱出してから来院までは1時間ほど経過しており、かなり腫れている状態であった。
鎮痛剤を投与し、胎児が残っていないかを確認するためにレントゲン撮影を行なった。胎児は確認されなかったため、脱出した膣を暖かい生理食塩水で洗浄し体腔内へと押し戻した。その後、生理食塩水を注入し再脱出を防止する目的で陰部を1糸縫合した。

腟脱は犬で発情期や分娩時にごく稀に発症するとされており、猫での発症も稀だと思われる。出産を予定していないのであれば卵巣・子宮摘出を行うことで腟脱の予防はできる。今回のような出産直後の腟脱や子宮脱は予防策はないが、できる限り早急に来院していただき処置する必要がある。

パグ犬の軟口蓋過長症の手術

パグやフレンチブルドッグといった短頭種のワンちゃんに起きやすい『短頭種気道症候群』という呼吸がとても苦しくなってしまう病気があります。

 

短頭種は鼻孔・鼻腔・咽頭がせまく、また軟口蓋という口腔内の天井部(硬口蓋)から後方にのびた柔らかい部分が通常より長いことにより(軟口蓋過長症)気道をふさいでしまうことなどが原因で発症します。

 

これらは先天的な要因ですが、それに加え『肥満や高温・多湿、興奮』といった、呼吸に影響をあたえる状態・行動がさらに病態を悪化させてしまい、場合によっては呼吸困難で命に関わる場合もあります。

 

長期慢性的に気抵抗が上昇していると、喉頭軟骨の変性や気管虚脱が生じることがありますが、その状態になる前に外科的に軟口蓋を切除する選択肢があります。

 

今回の症例は1歳齢のパグ(未避妊雌)

間欠的ないびき・喘鳴音が日常的にみられため、

①避妊手術と同時に

②軟口蓋過長部位の切除

③鼻腔狭窄に対する鼻翼切除  を行った。

 

短頭種は呼吸器の先天的な形態の異常が認められることがあるため、一般的な犬の麻酔よりもリスクを伴うことがある。

 

当院では短頭種でも安全に麻酔がかけられることを、術前検査として血液検査・レントゲン検査・心電図などを実施し総合的に判断をしてから麻酔を実施している。

 

今回の症例の動脈血酸素飽和度(SpO2)は覚醒時で94~95であった(基準値は95~100)

 

また当院では、避妊・去勢手術を含む全ての手術で、静脈カテーテル留置・気管挿管を行い、さまざまなモニターで動物の状態を把握している。

 

↑過長している軟口蓋をけん引し、切除・縫合しているところ

今回の手術は金子院長が担当

 

麻酔覚醒時は呼吸が安定化するまで、気管チューブを抜管せず留置し、酸素室で穏やかな覚醒を行った。(麻酔科の安獣医師が担当)

術後は良好で、呼吸がスムーズであったため、予定通り手術翌朝に退院した。

 

短頭種犬の飼い主様で、呼吸が苦しそう、麻酔のリスクが心配(歯石処置含め)という方は、当院に一度ご相談ください。

 

犬の中手骨骨折整復

15歳の小型ミックス犬が、ドアに左前足をはさんでしまった、とのことで来院された。

 

来院時には左前肢の完全挙上がみられらた。

 

レントゲン検査では、左前肢の第2,3,4,5中手骨の骨折を確認した

骨折整復の手術は、当院の整形外科担当の長澤先生が行った。

全身麻酔下にてピンニング固定による手術を行った。

(第2指はピン無し、第3指は1.0mm、第4,5指は0.8mmのピンを選択)

 

また、掌側はハードキャスト(スコッチキャスト)を使用し、ロバートジョーンズ包帯法にて固定した。

 

術後は定期的に仮骨の増生や骨癒合をレントゲンにて確認し、およそ2か月後にピンを抜去する予定である。

 

おうちのドアで足やしっぽをはさんでしまう事故には注意しましょうね~!

犬の会陰ヘルニア整復

肛門の横が腫れているとの主訴で、12歳のトイプードル(未去勢雄)が来院された。

身体検査にて左右両側の会陰ヘルニアを認めた。

レントゲン検査では直腸や膀胱などの臓器の逸脱は認められなかった。

 

※ヘルニアとは、体内の臓器などが、本来あるべき部位から「脱出・突出」した状態

 

 

ヘルニア内容は脂肪組織であった。

直腸を支持する筋肉群の萎縮が進行していたが、ヘルニア孔の閉鎖は自己筋組織をもちいておこなった。同時に去勢手術も実施した。

 

 

 

会陰ヘルニアは中~高齢で未去勢の小型犬、または中型犬に多く発生する。

 

直腸を支持する筋肉群が萎縮、または筋膜間の結合の分離によりヘルニア孔(輪)が発生し、骨盤腔内・腹腔内の組織や臓器が会陰部の皮下に脱出する。

 

治療には外科的な整復術が必要な疾患である。

 

整復法の術式は症例によってさまざまで、内閉鎖筋フラップ、半腱様筋フラップ、仙結節靭帯、総鞘膜、ポリプロピレンメッシュなどをもちいて整復をおこなう。

 

会陰ヘルニアの主な発生要因は、アンドロゲンまたはテストステロンであることが示唆されているため、若齢期に去勢手術を実施することで、会陰ヘルニアを予防または再発を予防することができる。

 

 

猫の口腔内の扁平上皮癌

左側の口が腫れている、という主訴で13歳のネコが来院された。

口腔内の左側上顎歯肉に腫脹病変部位を認め、その一部は感染により排膿・壊死をおこしていた。

 

 

麻酔前スクリーニング検査を実施後、全身麻酔下にて病変部位の組織生検をおこなった。

病理検査の結果は【扁平上皮癌】であった。

 

 

扁平上皮癌は、猫の口腔内に発生する悪性腫瘍のなかでは最も多く発生すると報告されている。(発症平均年齢は11.6~13.5歳)

 

 

一般的に猫の口腔内扁平上皮癌は犬と同様に局所リンパ節、遠隔部位への転移率は低い。

そのため、病変局所のコントロールがとても重要である。

治療方法は発生部位・病変の大きさなどによってことなるが、早期に発見された症例は外科切除が適応になる。

 

しかし、診断時にはすでに腫瘍の増殖が進行し、外科切除の適応外になっていることも少なくない。

 

そのような症例には、疼痛や腫瘍の増大に伴う合併症の緩和目的で放射線療法が適応となる。

しかし、猫の口腔内扁平上皮癌は他の内科治療も含め、治療は困難を極め、全体的には予後が不良である。

 

当院では、猫の口腔内扁平上皮癌に対し、切除可能であれば外科治療を実施し、そのほかにも内科療法(リン酸トラセニブ、非ステロイド性抗炎症剤)を実施している。

 

また、自力採食が困難になった症例に対して、飼い主様と相談の上、経食道チューブや胃ろうチューブを設置することもある。