先日2日間、延べ13時間の日本動物病院福祉協会主催の動物行動学のセミナーに出席してきました。講師はアメリカ獣医行動学専門医で現在日本獣医生命科学大学の講師をされている入交眞巳先生でしたが、ジェスチャーを交えたとても分かり易い講義でした。久しぶりの獣医行動学だったのですが、根本的なところがかなり以前とは異なっており、出席して本当に良かったと思います。
主だった内容をご紹介しましょう。
以前はあるトレーナーが立てた説でアルファシンドロームという考え方があり、「犬はオオカミの子孫」「オオカミはパックと言う群れで暮らす」「オオカミはパックのリーダーの言うことは絶対」「犬にとって人の家族はパック」「だから人間がパックのリーダーにならねばならない」とされていたため、一般的に犬はオオカミと同じだから、家族がボス(アルファー)になり犬はそれに従うようにしなければならないと言われていた。ですから「犬になめられてはダメ」「犬が家族の上に立っているから良くない」「犬のボスになれ」「犬より人が先に食事をする」「犬と一緒に寝ないこと」「散歩中に犬に引っ張られないこと」という様に言われていましたが、実はこれはどれも正しくないのです。 つまり犬は1万5千年前、家畜化されましたが、子供っぽい(幼形成熟)オオカミが家畜化されたので、本来のオオカミとは異なった犬になっているからなのです。
犬対犬の場合は、優位(強い犬の)行動と劣位(それより弱い犬の)行動により犬同士のコミュニケーション(姿勢や尾や耳の位置・顔の表情など)で解決します。ただし、4~8ヶ月齢までの離乳時期を過ごしていないとこのコミュニケーションがとれず、社会性のない犬になって、問題行動を起こすことになります。 犬と人の場合は、優位行動や劣位行動は関係ありません。そして元々犬は平和主義者ですから、いわゆるカーミングシグナル(相手を落ち着かせる行動)を示します。このシグナル(不安行動や葛藤行動)を人が良く理解することが必要ですし、そこに人が無理解でボスになるような対処をしようとすると、より問題を悪化させることにもなります。
犬の問題行動とされるほとんどが、単純なものではありません。つまり劣位行動(自信のない行動)と優位行動(自信のある行動)が同時に見られたり、これらが交互に現れたり、はっきりしない行動を見ることの方が多い訳です。
このような動物の行動を理解した上で、常同障害(強迫性障害)、別離不安症、攻撃行動等による問題行動を科学的に解明して、治療をしていくことが大切なのです。
猫の問題行動も犬と類似しているところもありますが、やはり本来の猫の行動や習性を理解することで、ほとんどが解決できることが分かってきました。
動物の問題行動の対処法(行動修正法)に良く行われる拮抗条件づけや系統的脱感作法などがあります。
そして様々な問題行動の治療の1つとして薬物療法がありますが、動物に安全に使える抗うつ剤や抗不安剤がありますので、単独または併用して上手く使うことで短期または長期のコントロールができる様になってきました。またこれらの薬剤は認知症(痴呆症)にも応用できますが、脳の血液循環をよくする薬剤や脳神経細胞や伝達物質の改善を図る薬剤などと併用することで、かなり改善することがわかってきました。