全盲になったアーサー君で、より理解できた飼い主の方の心情

10月にうちの家族のマルチースのアーサー君の右目が原因不明の緑内障になり、当院で眼圧を下げる処置を点眼液とマンニトールという薬剤の静脈点滴と内服薬等を駆使して治療したが、ほとんど改善しないため、急遽鎌倉の眼科専門医に連れて行き診察・治療してもらった。その結果、進行していて原因ははっきりしないが、緑内障の原因が外傷性に眼球内の強膜からレンズにかけて損傷して感染をおこした為かもしれないと言うことだった。    そこで内科的には改善が難しいということで、痛みをとってあげるために眼球の摘出しかないとういことを聞かされ、家内も娘も私自身もとてもショックで、もしかしたら気がつかないうちにあの時の散歩中に枯れ草や枝か何かが刺さって起きたのではないかとか、自分の不注意でこんなことになったのではないかと、家族のそれぞれが自分を責めてしまうようになってしまいました。                           いずれにしても早急に判断して処置をしてあげないとアーサーが今この時点でも痛みに耐えているのだから、うちに戻ってきてから私が手術するより、すぐにそのまま入院している専門医の病院で手術をしていただこうということになりました。家族は皆、不憫で可哀想だと涙し、私も自分の処置が間違っていなかったのか、もっと早い処置をしたら良くなっていたのではないかと落ち込んでしまいました。                  退院の日、家内と長女がアーサーを引き取りに行ったが、家に帰って来た時には二人とも眼を真っ赤に腫らして魂のない顔つきになっていた。私も眼球摘出手術はかなりの症例を経験しているが、これほどまでに不憫に感じたことがなかった。                         そして抜糸が済んで2週間も経たないうちに、今度は残った左眼が急に羞明(シバシバ眼を細める)角膜混濁、結膜強膜の充血、眼圧の重度上昇がおきてきた。つまり急性緑内障だ。ところが通常緑内障は瞳孔が散大するのだが、アーサーの眼は瞳孔散大はなく、対光反射(光に対する反応)もなかった。今回も通常の緑内障の眼圧を下げる処置を全て実施したが、ほとんど眼圧は下がらなかったので、前回の眼科専門医に連絡したところ、他の病院に出勤していていらっしゃらないと言うことだったので、以前から評判を聞いていた横浜の眼科専門医に連絡して、すぐに家内が連れて行った。                              診察の結果、そこの専門医はこの緑内障は先天性のブドウ膜炎から続発した緑内障ではないかと言う結論を出した。年齢が若く原因が特になく、虹彩がレンズと後癒着をしており、前房にフレアー(フィブリン)や蓄膿がある。更に角膜の混濁(浮腫)、結膜強膜の充血、高眼圧(65)だった。そこではやはり通常の緑内障の内科治療では難しいと言うことで、一時的ではあるかもしれないが、虹彩に穴を開ける手術と前房水を注射器で吸引する処置をした上で、内科的な点眼液やステロイドを使って維持しようと、夜中も院長が眼圧をモニターをしたり、治療を継続してくれた。                 2日ほど眼圧が安定したため、一時退院で自宅で点眼と内服をしたが、2日後また眼圧が65まで上昇し、本人もかなり痛そうになってきたため、鎮痛剤を投与し、専門医に今後のことを相談した。                                  そして家族で話し合った結果、やはり先天性のものならば、治癒することはなく、視力回復も難しいので、本人の苦痛や将来の合併症のことを考えると、眼球の内部にシリコンボールを挿入する方法より、眼球摘出をする方が良いのではないかという結論になった。しかし家内や娘はそれについてやはりかなり抵抗があったようだが、一度右目の眼球摘出をしていたので、決断にさほど時間はかからなかった。しかし両目のない人生(犬生)を想像するだけで、家族みんなが涙してしまいました。                                翌日私の手でアーサーの眼球摘出手術をすることになり、手術が無事に終わって術後4日目、今私の膝の上にアーサーを寝かせてキーボードを打っています。         アーサーは元々先天的なブドウ膜炎をおこす素因があって、続発性に緑内障になり両目の視力を失ったことになりますが、今回のアーサーの件で、ペットの視力が消失すること、さらに眼球摘出や義眼を入れること、これらを家族の方達が知らされた時の心情が、胸が痛くなるほど良くわかりました。                         今までも視力を失ったペットの飼主にとってはとても悲しいことだとは思っていましたが、実際にここまで動物が不憫になってつらくなるとは思いませんでした。この体験を踏まえて、今後は飼主の方がこのような現実が突きつけられた時、十分理解して頂けるよう時間をかけて説明していきたいと思いました。

下の写真はアーサーが一回目の手術を終えて帰宅し、やっと一段落したので2歳の誕生日のお祝いをした時の写真で、この数日後に反対の眼の症状が出た。